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【サッカー選手】籾木結花、初めての小児ケア

             

-はじめに-

今回、小児ケアの実態を多くの方に知ってもらうことや
スポーツ選手のセカンドキャリアとして介護職や福祉職の可能性を考えるために、
サッカー日本女子代表の籾木さんに株式会社エイチ・ユウ・ジー(ケアプロの子会社)が運営する
東京都杉並区のケアステーションHUG(はぐ)の現場体験をしていただきました。

ケアステーションHUG管理者の清水さんは社会人サッカーをしており、
高校時代は国体で県代表のキャプテンをしていました。
後ほど登場する山村さんも体育会出身であり、
身体能力やコミュニケーション能力が高いスポーツ選手は、
介護や福祉の業界にマッチしやすいと考えています。


-サッカー×ヘルスケアのパートナーによる共創-

現在、籾木さんはスウェーデンのダームアルスヴェンスカン・リンシェーピングFCと
<クリアソン新宿を運営する>株式会社Criacaoに所属しています。
Criacaoのサッカークラブ「クリアソン新宿」とケアプロが両社の理念実現のために、
総合的に支援、共創活動をしているパートナーのため、今回の企画が実現しました。


-初めての介護 〜医療的ケア児2万人のリアル〜-

医療的ケア児の1人である、はるとくん(5歳、以下はるくん)のお宅を訪問しました。
人工呼吸器や胃瘻があり、訪問看護や訪問介護(居宅介護)、通園(児童発達支援)、
相談支援を利用しています。

※厚生労働省は医療的ケア児を「医学の進歩を背景として、NICU等に長期入院した後、
引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが
日常的に必要な児童のこと」と定義しています。

 

-はるくんとご対面-

はるくんは、午前中にてんかん発作があり、その薬の影響で眠そうにしていました。
お母さんがはるくんに笑顔で挨拶してもらおうとするものの、思うようにはいきませんでした。
ただ、こういったことを含め、はるくんの自然体を知ってもらうことが大事だと思いました。

この日は15時からHUGの理学療法士の坊さんによるハビリテーション、
16時からHUGの看護師の井田さんによる医療的ケア、
16時半からHUGのケアスタッフ(介護福祉士)の山村さんによる入浴等のケアがありました。


-流石のボディバランスで抱っこ-

籾木さんは、初めて障害児を抱っこしました。
はるくんは首がすわっておらず、抱っこするのは容易ではありません。
しかし、自身のボディバランスがよく、はるくんの身体のどこを支えるべきかが
直感的にわかっていたため、しっかりと抱っこしていました。
抱っこを通して、籾木さんの気持ちも伝わっているようでした。


-小児ケアの実際-

はるくんは、一人で飲食や排便、健康状態の把握や管理ができません。
そして、何を考え、どう受け止め、どうしたいのかが明確にはわかりません。
しかし、「わからない」からこそ、信頼関係をつくりながら、
ちょっとした笑顔や仕草をキャッチしようとします。
籾木さんも、一生懸命、はるくんと繋がろうと関わっていました。

 

-看護師の井田さんがお母さんと一緒に医療的ケア-

心音や呼吸音等の聴診、痰の吸引、浣腸と腹部マッサージをして排便介助をします。
お母さんは「あ〜、ガスしか出なかった」とおっしゃり、腹部をぐいぐい押していました。
そして、最近、入院して増設した胃瘻について、井田さんはお母さんから話を伺っていました。

-介護福祉士の山村さんが入浴準備-

井田さんが医療的ケアをしている間に、山村さんはリビングと浴室を行き来しながら、
入浴準備をしていました。気管切開をしているはるくんは、昼夜問わず痰の吸引が必要です。
持ち運び可能な手提げバッグに収納された吸引セットを浴室に持っていき、
そして、はるくんを抱っこして、大好きなお風呂タイム。

-入浴後の準備-

清水さんとお母さんは、入浴中に布団を整えていました。
その際、お母さんから「実は、清水さんに昆虫が取れる場所を教えてもらい、
一緒に取りに行ったんです」と聞き、
部屋の片隅に綺麗に陳列されている多数の飼育ケースの理由がわかりました。

はるくんの弟さんも非常に喜んでくれたようです。
清水さんは、子育て支援は家族支援だと言います。

-お母さんから籾木さんへ-

お母さん:こういう子供がいるんだよということを情報発信してもらって
知ってもらうきっかけを作ってもらえて嬉しいです。
今でも、外出していて、見てはいけなかったのかなという顔をされることがあります。

最初は、商店街を歩くのが嫌でした。
大人の障害者は、大人のヘルパーがいて、見るきっかけはありますが、
小児は外を出歩いているのを見る機会は少ないです。
みんな、出にくいこともあると思います。
同じように生活できる世の中になることを願っています。


-これからの世の中に期待すること-

お母さん:健常の子供と同じように触れ合って欲しい。
でも、健常の子供と反応が違うので怖いかもしれない。
知らないものは怖いというのは、自分もそうでした。
生まれて4ヶ月で、ママ友とお茶している時に発作が起きて救急車で搬送されて、
遺伝子の異常で障害が出ました。

子育てをしていき、色んな方たちから教えてもらい、知っていく中で、慣れていきました。
怖いと思われると親としてはショックです。
そのため、健常の子供たちの普通の学校でも教えてもらえたらいいです。
子供たちから「これは何?」と器具について聞かれて、ここでご飯を食べているんだよ、
ということを伝えて、理解してもらえるといいなぁと思っています。

 

-現場見学を終えて-

籾木さん:はるくんからパワーをもらいました。
そして、新しい世界でした。海外に出て、サッカーに対しても、人に対しても、
自分が浅はかだな、ということを知る機会が増えています。

それと同様で、今回、スポーツの外の世界に足を踏み入れて、まだまだ自分は知らないことばかりだと気付かされました。
自分が知らない世界に挑戦すればするほど、知らないことがあります。
小児ケアについては知らない人が多いので、同じ選手たちにも発信して、
知ってくれた人が何かアクションを起こしてくれたら嬉しいです。


-医療的ケアに対しての不安や怖さはありましたか?-

籾木さん:それはありませんでした。
どういう子なのか、どういうことが必要で、どういう人に支えられて生きているのか、
ということをまっすぐに見ることができました。
海外に行く前の自分だったら、街中で障害を抱えている子供を見たときに、
普通の子供と同じ目線で見ることはできなかったと思います。

はるくんと繋がることができたらいいな、という感覚でした。


-海外での一歩踏み込んで多様性を知ることの大切さ-

籾木さん:アメリカやスウェーデンのチームを渡り歩く中で、
Black Lives Matterを痛感する体験がありました。
10個の質問をされて、自分に該当すると2歩進むというゲーム。

一番前に進めている人は、いわゆる恵まれている人で、一歩も進めていない人は、
自分では選ぶことができない環境の中で生きてきた人。
同じプロサッカー選手でもこれだけの背景の違いがあるのだと初めて知ることになりました。
一歩も進めていない黒人選手を見たときに、その選手も自分もどうすることもできませんが、
その選手に対しての感情がありました。

多様性という言葉は溢れているけれど、自分が知らない深いことに気づいて、
自分が知らないことに対しては、自分が知るという行動を取ることを心がけています。
海外に行く前は知らないことに対しては怖さがあるがゆえに、排除したり、
知ろうとする前に否定してしまうこともありました。

※Black Lives Matterは、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える国際的な運動

 

-はるくんに関わって、どのような気づきがありましたか?-

籾木さん:はるくん自身がどれだけ周りのことをわかっているのかは、
想像がつかず、よくわかリませんでした。
でも、生きていく上で必要なことを器具等にも頼りながら生きていくことは
自分が想像できないくらい大変なことだと思います。

その中で、生き続けて、はるくんが少しでも笑顔になってくれたときは、
こんなに素敵な笑顔ってあるんだなと思えました。

 

-HUGのケアスタッフや看護師に関わって、どうでしたか?-

籾木さん:サッカーのために、勝利するための笑顔は一瞬。
それまでのトレーニングは、本当に苦しいです。
自分の世界とは違いますが、介護や福祉、看護も似ていて、
そこで頑張っている人たちの笑顔は輝いて見えました。


-介護や福祉の社会的イメージが低いことについて-

籾木さん:スポーツ選手をやっていると、少し持ち上げられる感覚があります。
でも、自分自身としては、職業に優劣はありません。
自分の仕事に本気で向き合って、仕事を通じて幸せにしたい人たちがいるならば、
どんな仕事をしていても尊敬できます。
自分の体験を通じて、ケアの仕事の裏側や素晴らしさが、少しでも多くの方に伝わるといいです。

 

-介護や福祉の仕事のやり甲斐は?-

籾木さん:この仕事はちょっとサッカー選手に似ていて、苦しい時間が長くて、
一つ何かできるようになることがあったとか、一つの喜びが、
自分ですごく実感できる仕事だと思います。
直接的に相手の反応を感じにくい仕事もあるかと思うのですが、
介護や福祉は自分の行動が、着実に人を幸せにしていける仕事なのではないかと感じました。

 

-アスリートの介護や福祉へのセカンドキャリアの可能性は?-

籾木さん:地道に頑張って、チームの仲間と共に頑張るのは、スポーツ選手に適しています。
介護や福祉は身体的能力が必要になるので、スポーツで培ってきた力強さやしなやかさが活かせます。


-今後の介護や福祉の業界に対して-

籾木さん:今回、医療的ケア児が2万人もいることを知って驚きました。

こういった情報を得ることはなかなかないです。
ただ、今後もケアの世界を見ていきたいなと思うきっかけになりました。
介護は、シリアスな面もありますが、もっとポップに多くの方に届いてほしいです。

そして、スポーツ選手やビジネスパーソンなどが、
介護や福祉の業界をサポートできるようになればいいな、と感じました。

 

-籾木さんからのギフト-

籾木さんから後日サプライズのギフトが届けられました。
はるくんはお似合いで、笑顔で喜んでくれました。
いつか籾木選手の活躍を間近で見られると良いですね。


-編集後記 〜お互いを知り、応援し合う〜-

海外の厳しいプロの世界で活躍する籾木さんの視点から小児ケアを見つめていただき、
ヘルスケア業界にいる私たち自身が気づかされることがありました。
そして、スポーツとヘルスケアで異なる世界ではありますが、お互いに深く知り合い、
尊敬し合い、応援し会える関係になれたことを感謝しています。

籾木さんは、日本初の女子プロサッカーリーグのWEリーグが発足したこともあり、
サッカーを盛り上げていくためには、多くの人たちを巻き込んでいく必要性を感じていました。
そのためには、サッカーを知っている人だけに知ってもらっても輪が広がらないため、
より多くの人たちにサッカーの魅力を知ってもらう必要があるとおっしゃっていました。

これからも、スポーツやヘルスケアの価値や魅力、
豊かさについて、お互いに協力しあえたらと思います。
写真:左から金坂、籾木選手、川添

(川添 高志 / 金坂 宇将)

 

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<参考リンク>
ケアプロ株式会社 https://carepro.co.jp/
株式会社エイチ・ユウ・ジー ​​http://station-hug.jp/
株式会社Criacao https://criacao.co.jp/

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